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2008/07/07

ソナくそ第6回 お題(続々)「クロイツェル・ソナタ」

今回はいきなり本題です。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

前回「継子扱い」を受けていた「第二副主題B」の話をします。大好きなメロディーですから、やっぱ、これだけでワンテーマ書きたいですよ、私は。

まずは、前回行わなかったこのテーマの構成要素を「分析」しましょう。

Kreutzer0072 譜例7-2(画像クリックで拡大)

ひとつの息のつながったメロディーであるにもかかわらず、これを構成しているのは、見事にこれまで断片でしか見せてこなかった「第一主題」「第二主題」の各構成要素である事は一目瞭然です。

これをどう見るか?

「通常のソナタ形式」に則って考えると、これは、「第一主題」と「第二主題」の要素から導き出した「展開形」だ、と言う事になります。

でも、本気でそうだ、と考える人がいたら(いるとは思えないが)、そいつは、ただ単に「頭の堅い」「聴く耳を持ってない」だけじゃあないかな。

フツーに聴いていれば、この曲の中で、このテーマほど「よく語りかけてくる」物はないでしょう。だとすれば、やっぱりこのメロディーこそ、この第一楽章の「メイン・テーマ」と考えるのが妥当でしょうし、ベートーヴェンだっておそらくそのつもりで作っているはずです。

ただの「印象論」だけだと、具合が悪いので、一応これを「メインテーマ」とする根拠を。

提示部の中で示された(副主題を含めた)5つのモティーフのうち、これだけが、完全なカデンツ(和声進行の終止形)を持つ事。完全な形で繰り返される事。続く展開部では、その大部分が「第二副主題B」に支配されている事。・・・てな感じですか。

さて、そこまでは良いとして、次行きます。なぜ、通常のソナタ形式のフォームを破って、ベートーヴェンはこのような主題提示を行ったのでしょうか?

一般的な曲ですと、最初のテーマ(第一主題)で全ての要素を出す。ソナタ形式の場合は複数のテーマを持つ事が大原則ですが、その場合でも、第一主題+第二主題で、重要な部分は全部見せた・・・だからこそ「提示部」などという名前がついているわけです。

この曲において、ベートーヴェンは、全く逆の事をしているように思います。つまり、問題の核心を最初に言うのではなく、最後に言う。そして、その前の部分では、ただひたすら、その核心へ至る過程を見せていく。仮にこれを「後出しジャンケン」スタイルと名づけますが、この曲においては、各テーマを出す過程もそうですし、提示部全体でのテーマを出す順番も「後出しジャンケン」方式と、つまり、部分でも全体でも、そのやり方を完全に徹底させています。実は第一楽章だけではありませんで、第二楽章の冒頭8小節のテーマ構造も、後の4小節が「主題」、前の4小節はその「主題」の導入的部分(これは和声進行的にそうだと思います)、と言う形ですし、第三楽章はもっと分かりやすく、「テーマとその導入」の図式が、第一楽章と同一の「後出しジャンケン」スタイル。テーマそのものも、一聴瞭然ですが第一楽章とは兄弟関係にあります。

こうすることによってどんな効果があるのか?

子供が産まれる瞬間に例えると分かりやすいかな?母親のお腹が大きくなって、やがてそこに新しい「命」が宿っているのを感じる時、親と言うのはなんともいえない高揚感に包まれますが、でも、それは、例えば「羊水の中で動く気がする」とか「心臓の鼓動が聴こえる」という、いわば断片的な現象でしか感じる事ができません。現代はレントゲンなるものがありますが、それすら断片でしかないですね。それだけでも、十分に感動できますが。でもいざ、出産となり、今まで断片でしか感じる事の出来なかった胎児の初めて完全な形を目の当たりにしたときの感動と言うのは・・・どうですか?

この曲においても、まさに新しい何かが始まる予感、というものを序奏から感じますが、最初はひとつひとつ「要素」だけが提示されるだけ。でも、段々と材料が揃っていき、提示部の最後で、初めて「完全体」として姿を見せる、そういった構造になっています。ですから、これを聴く私たちも、彼の創作活動の過程に一緒に参加しているようなワクワク感を味わい、「例の」メロディーの出現で、「やったぁ、待ってましたぁ!」と言う快感を覚えるのです。これは、とても自然な感情の発露です。逆に言えば、ベートーヴェンはそういった感情の「推移」を熟知しているからこそ、ソナタ形式の殻を破って、独自のフォームで曲を書いたとしても、それが我々に全く違和感のないどころか、完全に感情と一体となって楽しむ事ができるのだと思います。

実は、ベートーヴェンはこうした書法を、op35の「エロイカ変奏曲」で試みています。その曲も、大事なメロディーを出す前に、まず、その構成要素を小出しにしながら、やがてひとつのメロディーへと完成してゆく様を体験できる。そして、この書法の究極は、まさにあの「第9交響曲」の第一楽章のイントロへとつながってゆくわけです。

そして、これだから、私はベートーヴェンをやめられない・・・と、こういうわけなんだな。

ここで、この話を打ち切っても良いですが、せっかくなので、次回「まとめ」をしようと思います。

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