« ソナくそ第3回 「そもそもソナタ形式なんて」 | トップページ | ソナくそ第5回 お題(続)「クロイツェル・ソナタ」 »

2008/07/02

ソナくそ第4回 お題「クロイツェル・ソナタ」

今回のお題は「クロイツェル・ソナタ」です(ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第9番イ長調op47)。ベートーヴェン33歳の時の作品・・・うわぁショックや、今のオレより若いじゃん。

ベートーヴェンの「クロイツェルソナタ」、この名前の「響き」も相当イケてるねえ。実際このタイトルの小説もあったっけ。クロイツェルというのは単なる人名なんだけど。

この曲、ベートーヴェン好きならキライな人いないでしょう?きっとそうでしょう。そうに決まっている。あったりまえじゃん。ベートーヴェンの一番おいしい部分がこんなにギュッと詰まっているんだぜ。第1楽章の英雄的なメロディー、第2楽章のうっとりするような優しさ、そして第3楽章の血わき肉踊る快感。どれかひとつだけ取り出したって十分な聴き応えなのに、それが三つセットになって1曲だなんてめちゃくちゃおトクだろ。聴いている間中、胸が躍りっぱなしとはまさにこの事。いやあ、オレ音楽出会えて良かったよお、ベートーヴェンとお知り合いになれて(なれてないって?)本当に幸せだよと、心から思える瞬間だわさ。

・・・いかんいかん、つい余計な事をしゃべってしまいましたが、そうそう、今回はソナタ形式を語る会なので、そちらに話題を振らなければいけませんね。

まずは「一般的なソナタ形式のフォーム」に則って、この曲の第1楽章の「提示部」と言う部分の分解を行っていきましょう。

序奏(Adagio sostenuto)・・・第一主題に至る18小節のエピソード。

Kreutzer001 譜例1(画像クリックで拡大)

冒頭の部分のヴァイオリンソロの譜面です。ベートーヴェンは、ここでテーマの1フレーズの一番ケツの部分(譜例で言うとb1、b2の部分)をどんどん発展させるという手法を使っています。日本の文法だと、ちょうど述語に当たる、でも向こうはドイツ語だかんねえ。この譜例のbの部分(いわゆるケツ!)をとにかく引っ張って引っ張って、最初はb1だったのが、いつしかb2だけになって(正確にはb2とその反行形の組み合わせ、後述)さらに引っ張り、第一主題につなげてしまいます。その「持って行き方」がすっげえんだな。「おおっ!そう来るのか。」って言う感じです(各自聴いてください)。

ベートーヴェンはこの「ケツを引っ張る」手法を、おそらくop10-2のピアノソナタ(第6番)で、最初に試しています。で、op28のソナタ(第15番、通称「田園」)で、かなり突っ込んだ形でこの手法を追求しています。でもね、これはただ単に「譜面上の遊び」「作曲技法上の遊び」じゃあなくて、ちゃんと意味があってやっている事だと私は思っていますよ。これはただ単に、学校のお勉強だけやってたんじゃ分かりません。なぜ、ケツの部分を引っ張るかってのはね・・・聴きゃあ分かる。

仮に、ひとつのフレーズ(例えば2小節とか)をある奏者が何の予告もなくいきなり弾いたとしましょう。もちろん、意識して「聞く」と言う作業をすれば、1フレーズぐらい、完全に印象付けられるでしょう。でも、無意識でいる時に、いきなりその「音」が鳴った、とすると、その時、人は出始めの音は記憶として残せず、最後に鳴り終った時に、初めてそれをフレーズと認識できるわけです。聴いた音を脳で「音」として処理するまでは一瞬でできますが、それを脳が実際に音楽として捉えるまでには時間を要すものです。

Kreutzer002 譜例2(画像クリックで拡大)

先ほどの冒頭の部分を例にとると、こんな感じです。だからこそ、「ケツの部分を引っ張る」のは意味があることですし、意味があるのなら、逆に「フレーズの終わりにオイシイ部分を持ってくる」といったテーマ構造にすれば、より効果的なわけです。私ごときがこの程度を理解するのですから、ベートーヴェンがこの論理を知らない訳がありませんしね。

もう一度譜例1を見てみます。実は譜例の中のa1、a2の部分は、曲中さして重要なものではありません。最初の音はヴァイオリンの4つの弦全部を使い、「ウワーァン」と鳴らしますので、いかにも大げさなのですが、ここではお客を「掴む」だけの働きしかないわけです。特にa1で「掴んで」おいて、重要な事はb1、b2で語ろう、とこういうことなのです。ま、最初に提示されるbは決して重要には聴こえないのですが、繰り返す事によって、「あ、これなんだ」と聞き手に分からせる、と言うことでしょうか?

いかんいかん、ソナタ形式の回なのに、出だしだけで、ちょいとしゃべり過ぎました。でも仕方ないのです。ご承知のとおり、ベートーヴェンは「出だしに命をかける」男です(もちろんそれ以外もですが)。それこそ、イントロ数小節で音楽が決まってしまうが如く、ここをどうするかに心血を注ぐ、それは、あの、有名な第5交響曲の出だしを例にとるまでもなく明らかです。だから、語る方だって、おのずと力が入ってしまいます。序奏の話はこれでやめます。本題に取り掛かれるのはいつのことやら・・・。

|

« ソナくそ第3回 「そもそもソナタ形式なんて」 | トップページ | ソナくそ第5回 お題(続)「クロイツェル・ソナタ」 »

クラシック」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/220206/41633312

この記事へのトラックバック一覧です: ソナくそ第4回 お題「クロイツェル・ソナタ」:

« ソナくそ第3回 「そもそもソナタ形式なんて」 | トップページ | ソナくそ第5回 お題(続)「クロイツェル・ソナタ」 »